【読書】色川武大 『狂人日記』

この本がすごい、すごいと、よく聞くので読んでみました。色川武大とは阿佐田哲也の別名です。阿佐田哲也ナルコレプシーに悩まされていたそうで、ナルコレプシーの症状から幻視、幻聴、幻覚があったそうです。この作品で描写される幻覚などにはなるほど現実味があります。

 主人公は五十代の男性。この『狂人日記』は主人公の日記のような体で綴られています。主人公は精神病院に入院していました。現実のなかに現れる幻聴、幻覚。夜中に叫んだり、唸ったりしているらしいけれど、本人にその記憶はなく、喉の感触から「どうやら自分は叫んだらしい」と思うにいたります。

 病院には同じく精神を患った入院患者の女性がいます。彼女は主人公のことを世話してくれます。彼女は主人公の看護婦になるといいだして退院しました。主人公を世話するために家を借りたり、仕事を探したり。その女性と過ごす中で主人公の精神はどうなっていくのか。

 

 この作品は半分が創作で、半分が色川武大の日記なのかもしれないと思いました。色川武大 - Wikipedia

「バイバイー!」と言って男といなくなった母、一家離散を宣言した父、そして主人公が持っていないものを持つ弟。熱中した遊び、犬の話、園子という女の話。これらの人々は、主人公の夢の中や、現実の幻視、幻覚となって現れ、主人公にいろいろと考えをめぐらせます。しかし、主人公はそれらによって苦しんだり、傷ついたりはしません。現実と虚構を織り交ぜて記される文章は淀みがなくて、気を抜いてしまうとどっちがどっちか分からなくなってしまうかもしれません。主人公は、小さなころから誰かに愛されたい欲求がありました。けれども、それはかなわないことの連続でした。

 そのたびにとりあえず頼れそうなものに近づいたりもした。けれども、孤立して生きる姿勢に慣れていて、というより、心を開く訓練をしていないために、まず第一に他人が自分を理解してくれなかった。そのうえ、はじめは気づかなかったが、自分のなかに、人々と心を通わせたいという欲求が渦を巻いているのを知った。(p202より)

 

  この作品は狂人の日記です。でも、狂人とはなんでしょう。狂人がいた精神病院とはなんでしょう。健常であることってなんでしょう。この作品が何かのメタファーだとは思いませんが、なかなか、すごい本を読んでしまった、という読了感でいっぱいです。色川武大の『狂人日記』はすごい。 

狂人日記 (講談社文芸文庫)

狂人日記 (講談社文芸文庫)

 

 

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